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MBAマネジメントブック 第1部 経営戦略

◆タイトル:MBAマネジメントブック
◆著者:グロービス経営大学院

第1部 経営戦略

○経営戦略の意義
本書では戦略を「企業あるいは事業の目的を達成するために、持続的な競争優位性を確立すべく構造化されたアクションプラン」と定義する。
経営資源には限りがあるので、何を行い何を行わないか、どのような強みを磨いていくのかが明らかになる。
さらに、企業としての方向性をはっきりと示すことで、企業活動を支える内外関係者の共感を得たり、従業員の能力を十分に引き出したりすることが可能になる。
ビジョン実現に向けて、論理的な側面と感情的な側面を併せ持つ。

○企業の目的
経営者の第一の使命は株主価値の最大化である。株主価値の最大化のためには顧客にとっての価値を最大化する必要がある。

○リーダーシップの重要性
激しい経営環境の中で競争力を保つには、企業変革の重要性を認識し、大胆な戦略を打ち出し、スピーディーに行動しなくてはならない。徐々に変化しても外部環境、競合も変化していれば、相対的に変化していない、退化していることになる。それには、現状を見極め、迅速に意思決定を下せるリーダーの存在が不可欠だ。トップマネジメントにはビジョンの提示、ステークホルダーを巻き込む力、過去の成功体験に捉われずに変化を受け入れる度量の広さなどが求められる。一方で、企業変革の担い手はミドルマネジメントであることも多い。(組織の結節点としての役割。)

○経営理念/ビジョン
経営理念は、企業の存在意義や使命を普遍的な形で表した基本的価値観である。経営者は「会社や組織は何のために存在するのか、経営をどういう目的でどのような形で行うのか」といった基本的な考え方を伝える。そうした価値観に対して従業員の共感が得られれば、企業内の求心力が高まり、働くインセンティブにも繋がる。このように、経営理念は企業文化の形成においても重要な役割を果たしている。

○戦略レベル
経営戦略は理念と現状のギャップを埋めるための具体的な方法論。
経営戦略は通常、全社的な視点(全社戦略)、個別事業の視点(事業戦略)、機能別の視点(機能戦略)という3つの戦略レベルで策定される。
機能戦略:人事戦略、財務戦略、生産戦略、開発戦略 等

○戦略策定プロセス

■経営理念・ビジョン
戦略目標を設定する際の思想的なバックボーンとなる。

■環境分析
外部環境は自社が直接コントロールできない社外の環境を指す。大きなトレンドや変化の兆しを明らかにしたり、市場のニーズや競争環境を把握することは、市場における機会と脅威の発見に繋がる。一方、内部環境では自社がコントロール可能な経営資源が分析の対象だ。経営資源や自社の構造上の強みや弱みを冷静に把握することにより、自社にとってのビジネスチャンスが見つけやすくなる。

■成功要因(KSF)の抽出
環境分析の結果をふまえて、当該事業を成功させるための要因を探り、それを実現するために何をすべきかを検討する。

■戦略オプションの立案
外部環境の変化や競合の出方のパターンなどに応じて、事業目標に到達するために戦略案(戦略オプション)を何通りか考えだし、事業展開の可能性を探る。

■戦略の選択
戦略オプションごとに、予想される結果や必要となる資源、実行の難易度などを検討し、実行すべき戦略を絞り込む。

■戦略の実行
戦略の遂行度合いを示す何かしらの指標を設定し、どの程度実行されているかを把握できるようにする。また、いくつものアクションプランの整合性を保ちながら実行できるように、評価・報酬制度、コミュニケーション、意思決定のルールなども整備する。

■戦略のレビュー
当初設定した期間終了後に、期待された効果を上げたか確認する。うまくいかなかった場合はその原因を解明し、必要に応じて修正案を考える。

○戦略立案に要求される2つの条件
優れた戦略を策定・実行するには、「合理性と論理性」「創造性と革新性」という2つの異なる条件を満たすことが求められる。

合理性や論理性
・事実を客観的に観察し、論理的に組み立てて分析する
・推論と事実とを組み合わせて、問題の構造(真の問題)に迫る
・真の問題に対応・解決できる方策を組み立てる
一方で、かかわる人々を動かすには、信念や夢、リスクへの挑戦、既存の組織風土の打破、革新的なものの見など、人間的な側面に働きかける力が必要になる。
戦略が有効であるためには、合理性や論理性に加え、創造性や革新性などの要素も体現しなくてはならない。

○全社戦略の3つの要素
全社戦略では主に3つに着目する
・ドメイン(事業を展開する領域)
・コアコンピタンス(企業の中核的な力)
・資源配分(経営資源の全体的な最適化)

○ドメインの重要性
たとえば鉄道会社の場合、ドメインを「鉄道による輸送事業」と定義した場合と「総合輸送事業」と定義した場合とでは、おのずと環境変化への対応が違ってくる。

○ドメインの決定要因
ドメインを決めるときには、製品やサービス(製品軸)から定義したり、市場ニーズ(市場軸)から定義したりする方法がある。
製品軸:カゴメはトマトを軸に種子、栽培、加工などの事業展開
市場軸:シティバンクなど。同じような性格を持つ顧客をくくり、その顧客層をターゲットとした事業をドメインとするやり方。

近年は、自社の競争優位性の源泉となるコアコンピタンスを軸にドメインを定める企業もある。
ドメインを決めるときのポイントは、自社の強みを十分に発揮できるかどうかだ。また、将来の成長を見込めるような定義にすることも重要だ。

○コアコンピタンス
コアコンピタンスは自社独自の価値を生み出す源泉。
コアコンピタンスの選択と育成。コアコンピタンスを「顧客に対して、他者にマネできない自社ならではの価値を提供する、企業の中核的な力」と定義する。
コアコンピタンスを見極める場合、以下の点について考える必要がある。
①模倣可能性 ②移転可能性 ③代替可能性 ④希少性 ⑤耐久性 の5つだ。
一般に①②③の可能性が低いほど(他社が簡単に真似したり、保有することが難しく、代替品も少ない場合)、④⑤が高いほど(手に入りにくく、耐久性に優れている場合)、競争優位は持続しやすくなると言われる。どの要素が有効かは市場環境や競争環境によって異なる。

○経営資源の配分
全社戦略のおける3つめの視点は、自社の事業や製品に対する資源配分だ。
不足している経営資源や能力は、社内で育成する以外に、他企業を買収して取り込む方法や、アライアンスやアウトソーシングなどのように外部資源を用いて保管する方法がある。

○事業ポートフォリオ
適正な資源配分を考えるには、事業ポートフォリオと事業ライフサイクルという考え方を理解しておくとよい。事業ポートフォリオを検討する場合、少なくとも3つの視点で考えるとよい。

事業の魅力度
簡単に言えば、その事業が儲かるか。測る尺度として、事業の市場規模、市場の成長性、産業の収益性、収益変動リスク、国際化の可能性などがあげられる。

競争上の優性
自社に勝ち目があるか。尺度として、市場占有率、市場における地位、他者と比較した相対的な収益性、組織の各機能の優劣評価などが考えられる。

事業間のシナジー
複数事業を持つことによって、単独で運営した時よりも大きな効果が得られることを言う。技術力、生産設備、営業網、ブランドのノウハウ、人材の移転など。

○事業ライフサイクル
市場の成長性や適正な資源配分を考えるときには、事業ライフサイクルを理解しておくとよい。

・導入期
売上も利益も低く、CFもマイナス。競合企業はほとんどないが、需要拡大のためにPR活動に力を入れる必要がある。

・成長期
競争が激しくなるため他社との差別化を図る必要がある。事業規模の拡大に応じ、マネジメントのノウハウをレベルアップさせなくてはならない。

・成熟期
競争上の優性が築けなければ敗者となる。大部分シェアをとり低価格を武器とするか、小規模企業は特定セグメントに集中する戦略をとることが多い。

・衰退期
安定した収益を上げ続けるには効率性の追求が不可欠である。

○競争優位を築くための3つの基本戦略
・コストリーダーシップ戦略
・差別化戦略
・集中戦略(コスト集中、差別化集中)

○マクロ環境分析
企業を取り巻く外部環境の中で、自社でコントロールできないが、企業活動に影響を与える要因を検証する。具体的には、人口動態(人口構成など)、政治・法律(法改正、規制、税制、外圧など)、経済(経済成長率、個人消費の伸び率、産業構造など)、分化(ライフスタイル、風俗など)、社会・環境(交通、治安、自然環境、公害など)、技術といった項目が分析対象。代表的なものをとったのがPEST分析。
すべてを網羅的に見ようとすると時間がかかるので、自社の事業に関係の深い重要な要因や環境変化だけに絞り込むことがポイントだ。

○3C分析
マクロ環境よりもさらに個別具体的な分析を行う時のフレームワークとして、3C分析がある。

・市場(顧客)分析
製品、サービスを購買する意志や能力のある潜在顧客を把握する。具体的には、市場規模(潜在顧客の数、地域構成など)や成長性、ニーズ、購買決定プロセス(購買の要因、情報収集方法、検討期間の長さ、購買行動の特徴など)、購買決定者(意思決定者、だれの意見をきくかなど)といった観点で分析する。

・競合分析
競合相手からいかに市場を奪うか、守るか。寡占度(競合相手の数)、参入障壁、競争相手の戦略、経営資源や構造上の強みと弱み(営業人員数、生産能力など)、競争相手のパフォーマンス(売上高、市場シェア、利益、顧客数など)に着目する。

・自社分析
経営資源や企業活動について定性面・定量面から客観的に把握する。

○SWOT分析
外部環境を分析する目的は、市場における機会を探り、自社にとっての脅威を見つけ出すことにある。内部分析では自社の強みと弱みを把握することに主眼が置かれる。環境分析の最終目的は自社にとっての事業機会を発見することだが、SWOTを整理することにより、成功要因(KSF)や自社にとっての事業機会を導き出しやすくなる。

具体的な手順としては、マクロ環境分析により市場における機会と脅威を整理する。このとき、何が事業のKSFなのかを十分に検討しておくことがポイントだ。次に、自社と競合を分析して強みと弱みを整理し、コアコンピタンスをよく見極める。そして、市場における機会と脅威に対して、自社の強みを生かし弱みを克服するにはどうすればよいかを考え、自社にとっての機会を見つけ出す。事業のKSFと自社のコアコンピタンスが適合していない場合は、KSFを変えるために外部環境に働きかけルールを変えるか、自社のコアコンピタンスの構造を変革してKSFとのフィットを高める努力が必要となる。

○業界分析:業界構造を決める5つの力

・新規参入の脅威
新規参入が容易な業界では、業界の収益性が上がるとすぐに参入者が増加し、収益性は下がってしまう。

・代替品の脅威

・買い手の交渉力
買い手の交渉力が強くなるのは、買い手の購入量が多かったり、売り手の総取引量に占める割合が高い場合や、商品での差別化ができない場合、買い手の情報量が多い場合などである。

・売り手の交渉力
売り手が少ない場合、自社の業界が売り手にとって重要ではない場合、売り手が買い手にとって重要な部品を売っている場合などである。

・業界内の競合他社
競争が激しくなるのは、同業者数が多い場合、同程度の規模の会社がひしめいている場合、業界の成長が遅い場合、産業型装置のように固定費の割合が多い場合等。

○業界分析:アドバンテージマトリクス
アドバンテージマトリクスは業界の競争要因(戦略変数)が多いか少ないかという観点と、それらの競争要因が優位性構築につながる可能性が大きいか小さいかという観点で、事業を4つのタイプに分けて考える手法である。

・特化事業型
競争要因がいくつか存在し、かつ、特定の分野でユニークな地位を築くことで優位性構築が可能な事業。規模と収益に相関関係はなく、特定セグメントの中におけるシェアが収益性の決定要因となる。特殊専門雑誌業界、計測機器業界、医薬品業界など。

・規模型事業
規模の利益を追求することで優勢を構築できる事業。下手に差別化を試みてもコスト高になるだけのことが多い。車、半導体、PCなど汎用性の強いもの。シェア拡大が基本戦略となる。

・分散型事業
競争要因が数多く存在するものの、圧倒的な優位性構築が困難な事業である。地域密着型の事業および事業拡大によるコストダウン余地が少ない事業が該当する。飲食業など。

・手詰まり事業
優性構築が困難な事業。成熟期/衰退期の産業で大規模化の限界に至った事業や、慢性的な供給過剰の状態にある業界などが挙げられる。

○内部分析:バリューチェーン
内部分析の目的は、競合と比較したときの自社の強みと弱みを把握することにある。
バリューチェーンとは、企業が提供する製品やサービスの付加価値が事業活動のどの部分で生み出されているかを分析する手法だ。資源配分の検討や基本戦略の決定に役立つ。たとえば、優位性にそれほど影響を与えない機能は外部資源の利用を検討するなどして、戦略上より有効な機能に自社の経営資源を投入することが可能になる。
バリューチェーン分析は業界構造の分析にも利用できる。

○コストドライバー
最適な戦略を策定するには、下記のコストドライバーがどのように自社のバリューチェーンに影響を与えるかを定量的に把握することが大切だ。
・規模の経済(または規模の不経済)
・経験曲線(ラーニング、経験の共有など)
・範囲の経済(シナジー)
・設備などの利用状況
・連結関係(価値連鎖の最適化、サプライヤーや流通チャネルとの関係)
・統合(垂直統合などによる5つの力の変更)
・タイミング(先行者の有利、不利)
・自由裁量できる政策(製品政策、技術・マーケティング手段の選択など)
・要素コスト(原材料や労働力などの変化)
・制度的要因(規制、法律、労働慣行などの影響)

○事業ライフサイクルに応じた戦略

成熟期の戦略:
ポーターは、成熟期に移行する業界の競争戦略を次の3点にまとめている。まず、製品構成の合理化と正しい価格政策だ。製品の原価計算の精度を向上させ、収益性が高い製品と不採算製品とを識別し、製品の絞り込みや製品構成の見直しを行う。第2はコスト競争力の強化だ。第3は既存の顧客への品ぞろえを充実させ、購買幅を広げることである。

撤退戦略:
管理会計システムを確立し、各事業の利益貢献を明らかにする。毎年あるいは四半期ごとに達成目標を設定する。継続的に下回ってしまう場合は、再建策、責任者交代、それでも結果が得られず撤退メリットがデメリットを上回る場合には撤退の意思決定を行う。

新規事業戦略:
新規事業戦略には主に以下の3パターンがある。
・ハード要素で事業展開を図る
・ソフト要素で事業展開を図る
・ニッチ市場の開拓

○バリューチェーンの再構築
バリューチェーンの再構築は新しく競争優位を築くチャンスとしてとらえることも可能だ。BCGは新しいビジネスの創出パターンを以下の4つに分類している。

・レイヤーマスター
特定の付加価値活動で優位性を築く方法。

・オーケストレーター
独立した企業が連なる新たなバリューチェーンを構築・運営し、全体の価値を高める方法。

・マーケットメーカー
既存のチャネルの弱みや欠陥をついて新市場を開拓する方法だ。例えば、インターネット中古車販売。

・パーソナルエージェント
ネット上の無数の情報を整理するナビゲーターが、新たな購買代理店として機能する方法だ。例えば、楽天市場。