MBAマネジメントブック 第5部 人・組織
◆本の概要
著者:グロービス経営大学院
ページ数:311ページ
第1刷発行:1955年7月20日
◆人・組織のマネジメントの目的
戦略目標の達成という企業の目的と、生活維持や自己実現などの個人の目的とをうまく適合させ、競争優位の源泉を築くことを目指している。
最近では経営資源の内、「モノ」「カネ」よりも「ヒト」の重要度が上がってきている。その背景には2つの理由がある。
①企業が環境変化に対応するには、個々の「ヒト」の能力が必要である。企業が直面している環境変化は不確実でスピードが速い。そうした状況に柔軟に対応するには、より多くの個人が戦略を理解し、迅速かつ的確に意思決定できるような「ヒト」のマネジメントが不可欠である。
②企業の競争優位の源泉が、設備や資金などから、知識や知恵へとシフトしつつあるからだ。知識や知恵を生み出す「ヒト」をいかにうまくマネジメントするかが、競争優位を築き、維持する上で重要になっている。
現在のように生活がある程度豊かになってくると、多くの人が仕事に「働きがい」を求め始める。自分の価値観や目的が所属している組織の価値観やビジョン、目的に合致したり、共感できる部分が大きい場合などに、人は働きがいを感じる。
経営理念やビジョンを実現するための経営戦略と、それを支援する人・組織のマネジメントが必要となる。このとき、経営理念、ビジョン、経営戦略、人・組織のマネジメントのすべてにおいて整合性をとることが重要だ。これらの間で整合性がとれていなければ、経営理念に共感を覚えて入社した従業員のモチベーションが下がったり、戦略目標の実現を妨げるような行動をとるなどの副作用が生じるおそれがある。
人・組織のマネジメントには、
・部下の管理やリーダーシップなどを扱う組織行動学(OB)
・人員配置や評価制度などを扱う人的資源管理(HRM)
という2つの領域がある。
OB:人や組織に影響を与える個人の取り組み
HRM:人や組織を動かしていくための企業の仕組み
企業はOBの考え方とHRMの考え方を組み合わせて人・組織のマネジメントを行うが、そのときに重要なのは、OBの個別の行動とHRMの具体的な仕組みとの間で整合性がとれていることだ。これらの間で矛盾があると、従業員は戦略目標を見失ってしまい、戦略が実現されないこともある。
◆リーダーシップとマネジメント
ハーバードビジネススクールのコッターは経営陣やマネージャーに求められる機能を「変革を推し進める機能」と「効率的に組織を運営する機能」の2つに分け、前者をリーダーシップ、後者をマネジメントと定義した。
それぞれの機能を果たすには3段階のステップを経る。
① 目的・目標を決める
② 目的を達成するための人的ネットワークを築く。
③ ②で築いた組織が目的を達成できるように手を打つ。
○リーダーシップ
長期的なビジョンを提示する、②ビジョンを伝達することにより、メンバーを統合する、③メンバーの動機付けを行う。
○マネジメント
短期的な計画や予算を立案する、②組織構造の設計、人員の配置、詳細計画のコミュニケーションなどを行う、③予算や実績管理などを行い、問題解決を図る
◆エンパワーメント
組織構成員の自律的な行動を促すために用いられるリーダーシップの技法の1つ。
自律的な行動は必要だが、構成員の動きに統一感、一貫性をもたせる、部下の能力を見極め適切な業務を設定する、等のバランスが重要。以下の3点に注意が必要。
・経営理念、ビジョンの共有
組織の存在意義、必ずすべきこと、すべきではないことなどの行動規範。経営理念、ビジョン、行動規範の浸透が必要。
・正当な評価と報償
構成員の意欲を高め、自律的かつ適度に制御された行動を促すために、OBの取り組みとHRMの仕組みを用意する。
・能力の把握と資源の提供
業務を任せる相手の能力を見極めることが重要。自律的に動くための必要な情報や経営資源を提供し、成功体験を積ませることにより、構成員のモチベーションをさらに高めることができる。
◆パワー
ステークホルダーとの対立を最小限にして好ましい成果を引き出せるように、多様なステークホルダーに影響を与える「パワー」、すなわち「人や組織の行動に影響を与える力」をいかに活用するかが課題となる。
○人や組織の行動に影響を及ぼすパワーの源泉
・強制力
受け手にとって苦痛となるものを与えることで、影響を及ぼすことのできる力。たとえば、ペナルティなどが該当する。
・報酬力
受け手にとって励みのあるものを与えることで、影響を及ぼすことのできる力。たとえばインセンティブが該当する。
・正当権力
受け手に対し影響を及ぼすことができる社会的地位の高さ。たとえば、公式の地位などが該当する。
・専門力
受け手が信頼することのできる優れた専門性の高さ。たとえば、専門知識、技術などが該当する。
・同一視力
受け手にとって魅力のある人物、理想像であること。たとえば、業務経験、実績などが同一視力を形成する要素となりうる。
様々なパワーを持つ人が複数集り、相互補完すればよい。
◆モチベーションとインセンティブ
人という経営資源は、モチベーション次第で組織への貢献度合いが大きく変化する。組織全体の成果を高めるには、企業は従業員に対して、モチベーションを高めるためのインセンティブを用意する必用がある。
モチベーションの代表的なものとして、金銭的動機、社会的動機、自己実現動機がある。
金銭的動機:生活に必要な金銭を得たい
社会的動機:一定の価値観を共有できる集団の中で社会生活を営み、その中で注目や評価を受けたり、権力を得たい
自己実現動機:自己を成長させたい、社会的使命感を満たしたい
モチベーションを高めるものをインセンティブという。どのようなインセンティブをどの程度与えるかによって、働こうという意欲も変わってくる。代表的なインセンティブとして、金銭的報酬、社会的評価、自己実現の場の提供などがある。
◆モチベーション理論
・マズローの欲求5段階説
・マグレガーのX理論・Y理論
・ハーズバーグの動機付け・衛生理論
◆集団のメカニズム
集団における個人の行動には、その人が集団に属していないときの行動とは異なる特徴が見られる。そうした特徴は、目標達成に対してよい結果をもたらすことも、望ましくない結果をもたらすこともある。
集団の構造を把握し、成果を高めるために考慮すべき概念
・規範:集団の構成員間で共有する行動基準を指す。
・役割:集団において期待される行動様式。人は様々な集団に属するが、集団によって期待される役割が対立したり矛盾することがある。
・地位:集団内における相対的な地位。地位の獲得は重要なモチベーションの1つ。
・規模:集団の構成員数。多ければ多様な意見を得られ、少なければ意思決定が迅速になる。
・多様性:多様性が高いと短期的にはコンフリクトを生むことが多いが、そうした困難を克服できれば、より高い成果を生み出す可能性が高い。
・凝集性:集団が構成員を引き付け、その集団の一員であり続けるに動機づける度合いを指す。
公式集団(フォーマルグループ)と非公式集団(インフォーマルグループ)
非公式集団は自然発生的に形成される。人間関係や交流は、公式集団における行動や業績に影響を及ぼす。(いわゆる要領がいい人)
◆チームマネジメント
得られる成果が構成員個々の業績達成能力の総和よりも大きくなる集団のことを「チーム」と呼ぶ。チームの構成員は個人責任と相互責任を担っており、その活動は個人の責任範囲にとどまらない。結果、チームの成果は各構成員の業績達成能力の総和よりも大きくなる。
高い成果を上げるチームをつくるには「構成員の組み合わせ」「凝集性」が重要だ。多様な構成員で編成されるチームは、より大きな成果を生み出す可能性がある。
なぜなら、
・技術的な専門知識というスキル
・問題解決や意思決定のスキル
・対人関係上のスキル
という3つの重要なスキルがチームとして十分に発揮されるからだ。
チームを構成するには、不足するスキルを相互補完できるような人材を集める必要がある。
◆組織文化と企業経営
組織文化は「組織構成員が共有する信念、価値観、行動規範の集合体」と定義できる。組織文化は価値観や行動規範として構成員の行動を規定する。
組織設計
組織設計の目的は競争優位の源泉を生み出し、それを維持できる組織を構築することにある。
いわゆる組織図で表される部門名や配置人員数などの静的な側面だけでなく、業務プロセスや意思決定プロセスなどの動的な側面も考慮しなくてはならない。
企業は外部環境や戦略との整合性を常に問い続け、競争優位の源泉を生み出し、それを維持できるような組織構造の構築を目指していかなくてはならない。
組織設計にあたって考慮すべき要素には、分業と協業、指揮命令系統、管理範囲、意思決定権限、分化と統合が挙げられる。
・分業と協業
ある程度までの分業は効率化するが、過度な分業は従業員のモチベーションを低下させる原因となる。業務の効率を最大化する分業の度合いを見つけ出すことがポイントとなる。
・指揮命令系統
命令や指示、報告などを含む情報の流れ。
・管理範囲(管理スパン)
1人のマネージャーが統制できる構成員の数を示したものだ。管理範囲が広すぎると統制がきかず、狭すぎると階層が増え意思決定に時間がかかる。
・意思決定権限
組織のどこで意思決定を行うか。意思決定の精度と効率を高めるために、集権化と分権化の適度なバランスをとる必要がある。
・分化と統合
企業全体の付加価値や効率を高めることを目的とする。
分化:同じ部門や部署において機能が異なるユニットを分離し別々に管理する。
統合:複数に分離されているユニットをまとめあげ、統一して管理する。
◆組織形態
・機能別組織
専門的な知識を持った人材を育成することができる。また、機能の重複がないので経営効率の点で優れている。その一方で組織の権限や責任はその機能の範囲内に限定され、全社の利益の最大化(全体最適)よりも各組織の利益の最大化(部分最適)を追求しがちになる。また、幅広い知識をもったマネージャーが育ちにくく、組織間のコンフリクトが起きやすい。
その結果、意思決定がトップマネジメントに委ねられ意思決定に時間を要する。また、責任の所在が曖昧になる。
したがって、この形態は事業間や製品間における調整の必要性が少ない場合、つまり事業形態が単純で製品の種類が少ない場合に有効である。
・事業部制組織
その組織が生み出す成果や組織のターゲットに焦点を当てた組織形態。製品、市場、顧客、地理的条件などを条件に決める。
事業毎に権限移譲が行われ、各事業部は利益責任を負う。責任の所在が明確、問題解決の迅速なアクションが可能。管理者がマネジメント・スキルを磨く機会も増える。組織間の切磋琢磨によって競争力が向上するメリットもある。一方で、全社的な協力が弱い、経営資源のとりあいになる恐れがある。様々なビジネスを手掛けるようになると、単純な機能別組織では対応しきれなくなるため、事業部体制をとる企業が多くなっている。
・マトリクス型組織
機能別組織と事業部制組織の組み合わせ。構成員は役割の違う2つの組織に属することになる。うまく機能した場合、情報伝達が円滑になり、一人の人間が2つの役割を同時に果たせる。その一方で、構成員は通常二人のボスを持つことになるので、権限や責任が曖昧かつ流動的になり、指揮命令系統が混乱したり、業務に支障が生じる恐れがある。
◆評価
評価の目的は、HRシステムの最適化を図るための情報収集と従業員とのコミュニケーションにある。評価結果は従業員の選抜や給与水準の決定に利用したり、従業員の労働意欲を高めるための情報やコミュニケーション手段として有効に利用すべきものである。
○情報収集
評価結果を分析することにより、人員配置、能力開発、報奨などのHRシステムの最適化を図ることができる。
・人員配置
昇進、適正に応じた配置転換、解雇
・能力開発
強み、弱みを把握して能力開発に関するニーズを特定
・報奨
従業員の昇給、インセンティブ
○コミュニケーション
評価結果やその理由を、自社の経営理念やビジョン、戦略などと関連付けて従業員にフィードバックすることにより、従業員の成果を組織としてどう捉えているかを示したり、期待や改善点などを伝えることができる。
課題:組織への貢献度合い、ポータブルスキル・テクニカルスキルの見える化
○評価項目
一般に、成果・能力・勤務態度(情意)などの評価項目を組み合わせて用いている。評価項目を考える際に最も重要なのは、企業戦略との整合性がとれていることである。
◆能力開発
能力開発の目的は、企業の戦略を遂行するために必要な人員構成を実現することにある。短期的には現在のポジションで、それぞれ求められる能力要件を満たすために能力開発が行われる。能力開発はコストではなく、企業の競争優位の源泉となる知識を生み出す人に対する戦略的な投資としてとらえることが重要だ。